妙印尼(由良輝子) 〜上州の肝っ玉かあちゃん〜


館林出身 永正十一年〜文禄三年とも生没年不詳とも言われる人です。
生まれた場所も死んだ場所もはっきりしているので、おそらく生没年ははっきりしたものだと思うのですが・・・
赤井重秀の娘として上州館林の地に生まれますが、この父親の名前も重秀とも照光とも言われはっきりしません。
まぁ、上州赤井氏はわからない事が多いんですけど・・・

妙印尼は嫁ぐ前は輝子という名でした。(照と輝は<テル>で繋がるので、照光の方がなんかしっくり来る感じがありますね)
輝子は、東毛においては岩松氏を下克上し雄を馳せていた横瀬氏に嫁ぎます。
横瀬氏は当時由良氏と姓を替え、輝子が嫁いだ相手は下克上で主家を軟禁し、金山城を奪った由良(横瀬)成繁でした。

由良成繁は下克上後は東毛の中心的人物と成り下野に攻め入ったり北條を関係を深めながら地歩を固めました。
輝子は成繁存命中は目立った事跡もなく、嫡男となる由良国繁を生み、母として夫と家を支えていました。

やがて成繁は死去、由良家は輝子の子である国繁が継ぎ輝子は髪を下し妙印尼となり、近隣の寺の隠居しました。
妙印尼が70歳になろうという頃、関東の情勢もだいぶ変化しております。
上州の地を争った武田信玄、上杉謙信は既に無く、小田原の北條氏が関東の覇者として勢力を広げていました(このときの北條氏の主は四代目の氏政です)。
天正十二年のころ、金山城主だった国繁と館林城主になっていた弟の長尾顕長は小田原城に拘禁されます。
理由は諸説ありますが、北條氏の従属同盟下のような状態にある由良氏とはいえ度々北條氏に非協力的な態度を取ったりしていたので、業を煮やした氏政は完全に服属させるべく騙したと言われています。
「これからは仲良くしよーね」という風の書状を持って呼び出して、そのまま監禁・・・みたいな。

この話を聞いた妙印尼は「バカ息子どもがぁ!」と怒り出し、隠居所を出て城主不在で指揮系統が乱れている金山城を掌握します。
北條氏からは「当主とその弟を返して欲しかったら降伏しろー!」と書状が着ますが、息子の命を引き換えにしながら妙印尼は、これを敢然と拒否。
当然、攻めて来るであろう北條勢のために防備を固めた上で、北條氏と敵対している常陸佐竹氏や下野佐野氏等と書状をやり取りし連携を模索します。
(別の説では、国繁・顕長は北條氏に靡きがちだったので、兄弟が小田原向かって留守の隙に妙印尼を担ぎ上げた家臣団が反北條を打ち出し上記のような状態になったため、国繁・顕長兄弟が北條氏に拘束されたという話も)

一触即発、戦になりかけますが当時の北條氏は周辺部の抗争も抱えているため、金山・館林両城の引渡しと国繁・顕長の解放を交換条件に和睦を提案。
妙印尼はこれを受諾し、桐生城へ一族を連れて退去します。
その後も由良氏は桐生城を中心に東毛や足利方面での活動を続け、一定の影響力を保持し続けます。
金山城は北條氏直轄となり、清水正次が城代として派遣されました。

それから六年後、関東には西から天下統一の波が怒涛の如く押し寄せます。
言わずとしれた「豊臣秀吉」の波です。

北條氏は、過去の経緯はあるとはいえ一応は従属化にあると看做せる由良氏にも小田原参陣を命じます。
最初は由良氏側は拒否しましたが、顕長が収めていた足利城に北條勢が攻める姿勢を見せたため、国繁・顕長兄弟は改めて北條に降伏。
桐生城は破却され、国繁・顕長兄弟は軍勢を率いて小田原に向かいました。
しかし、ここで妙印尼は驚くべき行動にでます。
妙印尼は心底から北條氏を信頼していなかったようで、豊臣方である前田利家・上杉景勝らが率いる北陸道方面部隊に三百の兵に孫の貞繁と息子の渡瀬繁詮をつれて参加してしまいます。

この由良勢の活躍のおかげかどうかはわかりませんが、北陸道部隊は松井田城を始め上州・武蔵の城を順調に攻略していきます。
やがて小田原城は陥落、北條氏は滅亡します。
小田原城にいた由良国繁・長尾顕長の兄弟も本来なら何らかの罰を受ける可能性もありましたが、妙印尼の参陣の件もあり、両名はお咎め無しに。
また、妙印尼の話を聞いた秀吉は、妙印尼宛に「お褒め手紙」を出したそうです。

由良氏はその後、国替えとなり常陸牛久に五千石程の知行を受け、妙印尼は牛久の地に得月院という寺を開き、そこで没したそうです。
得月院は現在も残っており、妙印尼の画が寺宝として伝えられているようです。

妙印尼がいなければ由良氏は滅亡の憂き目にあったかも・・・と思うと、果断な行動で嫁ぎ先の家名を守った、まさに肝っ玉母ちゃんですね。
なお、妙印尼の孫に当たるのが豊臣による北條攻めの一環で、「水攻め失敗」で有名な忍城攻防戦において、女だてらに甲冑を纏い城門から勇躍し、長刀を振って石田勢を蹴散らした「甲斐姫」だそうです。
血筋・・・・ですかね(笑)

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